※R劇場版DVD購入記念と言いつつ、へたれ鬼畜な衛さんがうさぎちゃんにうだうだとおイタする話。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 真っ暗な部屋にたゆたう小さな身体に縋り付く、光に群がる蟲のように。零れる金色は幾筋も、渇きを癒したくて流れを口にする。花の香り。肌はどこまでも白く柔らかく、月の光を受け入れてさらに自ら発光する。ただ一点、縫いとめた手首だけが光を遮られている。
  
 全てをさらした肌はどこに触れてもしっとりとなめらかで、けして混ざり合えない境界の感触を哀しく愉しんでいる。臍のした辺りにてのひらを滑らせるとさっと鳥肌が立った。この奥に願ってやまないちいさな部屋がある。いつも、どんなに強く入り込もうとしても届かない場所。それを夢想しながら、く、と力を入れると、皮膚は弾力を保ちながらてのひらのかたちに窪む。この身体が、君が、かえすどんな反応も全てが。
  
 閉じられた膝を割って入り、ぴったりと寄り添う。両手で乳房をかき集めて顔をおしつけると、柔らかなふくらみの向こうから規則正しい拍動と呼吸の音が聞こえた。涙が出ると思った。
  
 彼女が身じろいでぎしりと軋む音がする。こうするといつも頭を抱えるようにするから、今も両手を固定されているにも関わらず無意識に動いてしまったのだろう。顔を上げると青い瞳が困ったようにこちらを見ていた。
  
「あのね、あたし、あの時ほんとに、死ぬつもりなんてこれっぽっちもなかったんだよ」
  
 晧々と月明かりの照らす部屋で、裸で手首を繋がれ、きっちりと服を着込んだままの男に無遠慮にまさぐられているのに、視線に拒絶や嫌悪は一欠けらもない。また情欲もない。
  
「生きて、まもちゃんと、みんなと、帰りたかったの。ね、ほんとよ。」
  
 透きとおった目でなおも言い募る君が途方も無く憎く愛しかった。脱力して、だらりと小さな身体の上に全てを投げだす。重さを全部乗せる。ぐっと一度呼吸をつまらせた後、苦しそうに忙しなくひゅっひゅっと細く早く喉が鳴り出した。筋肉のあまりついていない身体はこのくらいの重圧ですぐに呼吸ができなくなってしまう。
  
 君はその存在を害されようとしている時ほど「生」に溢れている。血と肉そして俺が依存する偉大な多くのものが、いっぱいにつまった身体は、押し潰されていま無惨にゆがんでいる。苦しさに喘ぐ姿に、君が間違いなく生きているという事実を逆説的に見る。
  
 君の光に惹かれるのが俺だけならよかった。君は全く無自覚に、けれど何かに導かれるように確実に、やがて来る未来この惑星の愛される独裁者となるべく次々と信奉者を増やす。優秀な人材を引き寄せてはたらしこんで、クイーンになる日のため手元に置いておくのが20世紀の君の仕事だ。
  
 ゆっくりと身体を浮かせると、君は赤くなった顔で何度も深い呼吸を繰り返した。白い肌には俺の服の皺の痕が全身にくっきりと走っていた。ひび割れたようで醜く、俺は少しだけ安心する。
  
「ごめん、ひどいことした」
  
 ポケットのナイフで手首の拘束をとく。そこもうっ血していて醜い。光らない。そして君は微笑って俺を抱き寄せる。待ちかねたように。だから愚かにもまた惹き寄せられてしまう。
 
  
 光に触れた至幸の一瞬に焼き払って欲しかったのに
  
 生かされたまま光源に密集する蟲の一匹に過ぎない苦しみ
 
  
 君が生きていることをもっと確かめたくて、何をしでかすか解らない俺自身が恐ろしくて、拮抗した気持ちを抱えたまま君に縋り付いて過ごした夜。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
05/06/03 
「文字書きさんに100のお題」71:誘蛾灯
 
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