――通り魔的犯行。
 ごりりと頬骨が鳴って痺れるほど強く押し付けられた冷たい石の床の感触を否応なく味わいながら、神獣、白澤の頭を廻っていたのはそんな言葉である。身を穿たれる感覚にもがけば、手首を戒める紐が絞まってきりりと痛んだ。ちりちりと鳴ったのは紐の先端を飾る石のはずだ。頭にある目は三つとも塞がれていて視界は無い。

 何てことのない日だったのだ。仕事に飽きて、店を閉め、衆合地獄の花街に来た。今日はどの店、ふらりと入った店先で、ばったりと愛想無しの鬼神に出くわした。
「、あァ、」
 閻魔大王は相変わらずなのか目の下に濃い隈をつくった顔で気の抜けた風に声を洩らして、何か腕を振ったな、と思えばもう殴り倒されていた。
 殴られた痛みよりも脳を振られて立て直しが利かなかった。這いずって起き上がろうとしたところを、鳩尾に一発、つま先がめり込んで、がらりと戸を開けた手近の物置に蹴りこまれた。
「ぎ、ッ、ぁぁあああ」
 ぐわんぐわんと世界が揺れて上も下も分からないのを、耳朶から耳飾を引き千切られた痛みで正気に返ったのは皮肉なことだ。おかげで、耳から顎、首筋へと伝う生ぬるい血液の不快な感触がはっきりと感じられた。
「ぉ、まえッ!」
「……どうせ貴方と会ったらこうなるんですから、面倒な過程は省こうかと思いまして、」
 むしり取った耳飾の紐で白澤を後ろ手に拘束しながら、飄々と嘯く鬼を殺してやりたいと思ったところで罪にはならないだろう。うつ伏せに床に押し付けられ、それでも振り返り罵声を浴びせようとすれば、三角巾で視界を奪われた。白衣と上衣をたくしあげられ、全く無遠慮に下衣に手が掛かれば心臓が冷えた。鬼灯が白澤を気まぐれに犯すのはこれが初めての事ではなかった。

 どのくらい時間が経ったのかはわからない。
「…………ッ、」
 口は戒められることなく自由だったけれど意味をなす言葉は紡げずに、ひゅっと細く息を吸い込めば床に溜まった埃を吸い込んで弱々しく噎せ込んだ。激しく咳き込む体力がもうない。口の端から途切れずに垂れて落ちる唾液の感触が冷たく不快で仕方がない。
「おやおや、大丈夫ですか?」
「ッ、ァ、……ッ、か、はっ」
 は、は、と止まってしまいそうなほど荒い呼吸をなんとか整えようとし、しかしその途中で白々しい言葉と共に、高く持ち上げられた腰をぐいと抱え直されて、じゅぶ、と身体の内部を強く擦られれば、本当に息が止まった。
「貴方男に犯されて息もできないほど悦いんですか。もう、これ、いらないんじゃないですか?」
 プライドもなく涎をこぼし続ける摩羅をつうっと指で辿られる。見えなくても、わかってしまう。身の丈ほどもある金棒を振り回しておきながら、どこか品の良さを感じさせるしろい手、美しく整えられた爪のついた鬼灯の指先が、何千何万の女の胎内で焼かれて赤黒に染まった白澤の醜い摩羅を、優雅に弄ぶさまが脳裏に浮かぶ。
「っ、あ」
 その瞬間に、ぼたぼたと白濁があふれ出た。おそらく鬼灯の指を穢く汚したに違い無い。
「堪え性の無いことですね、」
 はあ、とわざとらしい溜息が耳元に落ちれば、閉じた目蓋の裏が赤く染まった。
「な、んで、こんな……っ」
 朴念仁が、確かに笑って、く、と喉を鳴らすのを白澤は聞いた。
「森羅万象に通じているのが神獣白澤なのだと思っていましたが、そんなこともわからないのなら、貴方やっぱり白豚なんでしょう」
 くくく、と腹立たしいほど良い声で低く笑って、鬼神は腰を使い始めた。後はもう言葉を交わすこともなく、そう間を置かずに白澤の意識は闇に呑まれた。





初出:12/06/13
別名義で公開している小説を転載しました
そういうプレイ。
鬼灯の冷徹を最初に読んだときは
白鬼かなあと思ったけれど
鬼白読みたい、と言っていただいたので
ボコり愛で書いてみました。
(12/12/22)