12月2日

 早朝と言っていい時間だ。しんと冷え切った空気は清浄で、雲雀の愛するものであり、風邪を引くといって沢田が厭うものである。24時間稼動しているボンゴレ並盛支部とは違い、風紀の方は表向きは研究機関なので、徹夜で解析作業をしている研究員もいるにはいるが、基本的にはこの時間、無人である。

 今日は一日外出する予定で、それは以前から決まっていて準備も出来ていて、本来ならば自宅から直行、ここへ来る必要はないのだけれど、それなのに雲雀は今、風紀の自分の執務室にいる。

 2、と書かれた小さな扉に指をかける。昨日の1の扉の中には個包装のカリカリ梅が入っていて、「疲れたときにはクエン酸です」と走り書きしたふせんが貼ってあった。何年か前、まだ二人とも制服を着ていた頃、応接室に来た沢田に、お茶請けに梅菓子を出して、雲雀が言ったのだ、すっぱいものは身体に良いと。

 今日は紙箱の表面に開けられた小窓の大きさに見合わない、ずいぶんと大き目のものが入れられていて、雲雀はもみの木の絵を破らないようにそれを取り出すのに少し苦労をした。沢田はこれを作るとき、先に穴を開けておいて、後ろから中身を入れた袋を取り付けたのだろう。取り出すときのことまで頭がまわらなかったらしいのが、彼らしくて笑ってしまう。

 出てきたのは一口羊羹だった。やはりふせんが貼ってあって「今日はごはんを食べましたか?とりあえずこれで糖分を補給してください」と書いてある。

「そういう自分はどうなの、」

 しょっちゅう食事をとり損ねているくせに。大人になってそれなりに筋肉もついてきても、いつまでも痩せた印象の拭えない沢田のことを、その肌に頬を寄せることを思った。