12月3日

 一日の終り、もう少しで4日になってしまいそうである。くたびれたワイシャツの襟元の、黒いネクタイをぐっと緩めて、ふ、と息を吐いた。ジャケットの内ポケットを探って、少し変形した一口羊羹を取り出す。よれてしまったふせんをはがすと、パッケージを剥いて口に入れた。濃い甘さが、じんと舌に染みるような気がする。

「……茶が欲しい、」

 呟きを聞く者はない。そういえば、今日、最後に水分を補給したのはいつだったか、食事らしい食事も、朝食だけだ。つぶれた羊羹を咀嚼する間に、腹が減ったとか、喉が渇いたとか、ちょっと寒いとか、ひとらしい感覚が雲雀に戻ってくる。

 何とか、今日のうちに間に合った。そんな風に思って安堵している自分に驚く。これを作った沢田本人だって、まさか本当に雲雀が一日ひとつ扉を開けるだなんて、考えなかったのではないだろうか。

 3の小窓の中には、松露がふた粒と、ふせんではなくて、メモ帳の切れ端のようなものが、細く折り曲げ、硬く結び文にして入っていた。学生が授業中、教師の目を盗んでこっそりと回すような。

 あんこのおかしが続いちゃいました。
 ひばりさんは和服のイメージがあるから
 ついこういうものをあげたくなるけど
 本当はウォンカチョコとかが好きだったりします?
 ひばりさんの好きな食べ物はいまでもハンバーグなのかな
 最近、こういう話をしませんね
 紅白見ながら、ひばりさんがいま好きなもの
 教えてください

 最近の好きな食べ物、と考えてみたが、空腹を抱えた真夜中なのに、雲雀の頭には特に何も浮かばなかった。

「ずいぶん、つまらない人間になったものだね、僕も」

 次に沢田に会った時、最初に食べたものを好きな食べ物にしようか、と考えて、少し笑った。