12月4日

 土曜日、雲雀は普段より一時間半遅い起床を自分に許した。午前十時、休日出勤。小さな子供を持つ草壁は基本、土日が休みになるようにしているから、メールのチェック、報告書のチェック、組織の者が手に入れてきた指輪の検分など、一人で行ったりきたり、気ままに仕事を進める。しばらくはさくさくと業務をこなしていたが、ふと時計を見て、雲雀は席を立った。

 かつかつと革靴を鳴らして廊下を歩く。辺りに人の気配はない。研究室が並ぶフロアは薄暗く、空調は人間の快適温度ではなく精密機器の適温に合わせているので少々肌寒い。普段なら、雲雀はあまり近寄らない。優秀で繊細な研究員たちに組織のトップがやたらめったら顔を見せては、プレッシャーをかけていると受け取られかねないからだ。

 いくつか、光の漏れている扉がある。その前を足早に過ぎて、雲雀の歩みには迷いがない。そして、ひとつの扉をノックした。返事は待たない。

「あれ、雲雀さん?お邪魔してます」
「どうもー」

 一応休日だからか、スーツではなく、暖かそうなラフな格好の沢田と、いつも変わらず黒いスーツのジャンニーニが、覗き込んでいたPCのディスプレイから顔を上げて会釈した。

「結果は出たの?……試そうじゃない、早速」
「いいいいいいや、その、これは、戦力増強というより、備えあれば憂いなしというか、」
「だったらなおさら、肝心な時に使えなかったら意味ないでしょ」
「う……っ、あ、えー、と、」
「45分。沢田綱吉を借りるよ、」

 苦笑いで肩をすくめるこの部屋の主、スパナと、ジャンニーニに背を向けて、雲雀はパーカーを着たボンゴレ十代目の襟首を掴んで引きずりながら、模擬戦のできるフロアへ向かった。

 今日は予定通りなら
 ジャンニーニと一緒に
 スパナのラボにいるはずです
 コンタクトの新バージョンの試作品
 試してほしいって言われてます

「沢田、口開けな」
「はい?」

 模擬戦はカメラでスパナとジャンニーニも見るだろう。だから、廊下にいるうちにすることがある。雲雀は、4の扉の中に結び文と一緒に入っていた、サクマのいちごみるく飴を沢田の口に放り込むと、その上から被さるように唇を合わせて、もろく崩れる甘い三角がなくなるまで存分に味わった。