12月8日
朝一番、執務室に入るなり、腹心の部下の挨拶にも応えず、がさごそと机をかき回し始めた雲雀に、草壁を含めなんやかんやと出入りしていた人間たちは皆、そっと出て行った。機嫌の悪い空気を垂れ流している自覚はあった。これで少なくとも午前中いっぱいは、草壁以外の人間はこの部屋には近寄らないだろう。
恐れられているというよりもそれは、気を遣われているのだったが、雲雀にはそういう他人の心の機微はわからない(雲雀が他人の心を推し量ろうとするのはほぼ100%沢田綱吉が絡んでいるときだけだ。が、なんとも幸せなことに雲雀にはその自覚がない)。
カレンダーを出す。苛立っているのだか、期待しているのだか、自分でもよくわからない気持ちで、7の扉を開く。強く引っ張ったせいで、ツリーの絵は少し破れてしまった。そこから、ころり、と出てきたのは、柚子ののど飴。三浦ハルか、それともイーピンにでももらったのか、どう見ても女性しか使わないような、雪だるまのかたちのファンシーなふせんが貼ってあった。
このあめ ひばりさんの味がします
学生の時、一緒に入ったコンビニで買って、食べ物の味に言及することの少ない雲雀が気まぐれに「おいしい」などと言ったものだから、沢田綱吉の手土産や差し入れがしばらくこればかりになって、当時は内心閉口していたのだ。けれど雲雀は今この飴を見るまで、そんなことは忘れていた。1日のカリカリ梅だとか、3日の手紙のハンバーグだとか、
「よくもそんな昔のこと、」
ばかばかしいことだとは自分でも思うのだけれど、雲雀ばっかりが沢田綱吉のことを好きで、沢田のほうは、結局、彼は、ボンゴレという大きなファミリーの、ファーザー、みんなのお父さん、だから、雲雀が沢田のことを好きなほどには、沢田は雲雀のことを好きではない、それほど気持ちを割く余裕なんてない、と、いつも考えている。けれども、
「僕のことを一番知っているのは沢田だ」
草壁よりも。
先日は、沢田本人だって雲雀が毎日カレンダーを開けるなんて思っていなかったろう、と考えたけれど、それは多分違う。沢田は、雲雀はぶつくさと言い訳しながらも結局は毎日開けるだろう、とわかっていてこれを寄越したのだ。
「むかつく」
のど飴は記憶にあるよりも甘かった。
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