12月12日

 くたくたの黒いナイロンのカバンに、適当に下着と靴下を放り込む。クリーニングから帰ってきたYシャツも、ビニール袋のまま入れる。必要なものと言ったらそのくらいだ。

 にちようび!
 オレは今月ゆいいつの休日です!!
 (たぶん一日ねています。)
 ひばりさんは明日からホンコンだって
 きいてます
 こういうものは好きじゃないって
 ようく知っていますけど
 これはオレの自己まんぞくです
 ぶっそうなひばりさんが
 五体まんぞくで日本に帰ってきますように!
  愛 をこめて
 こんど会った時にかえしてください

 折りしわのついたコピー用紙の切れっ端が、文机の上に広げられ、その上には小さな古いお守りが乗っている。くたびれた紺地に白い紐、金色の鈴のメッキは剥げてところどころ黒い地金が覗き「御守 並盛神社」刺繍の端は擦り切れている。子供の頃、雲雀が彼にやったものだ。

 沢田綱吉がまだ中学生で、雲雀は高校生になった年、並盛神社は雲雀の所有するところとなった。そう大きな神社でもないが、神域のため手付かずだった森はなかなか広く、ヒバードはそこでつがいを見つけ、巣をつくった。何か謂れがあるわけでもない、地味な神社で、秋と夏の祭り、正月に、町内会のイベントがあるくらいで、普段は参拝客も少ない。雲雀も別に、書類上風紀委員会のものとなっただけの話で、管理を引き継ぐ以外にはどうこうする気はなかったが、物言いをつけたのが彼だった。曰く、神社にはおみくじとお守りがないと、と。

 管理する者はいるが、専任の神職など居らず、行事のときにだけ神社庁に頼んで呼んでいるような神社である。とうてい現実的な話とは言えなかったが、雲雀も思うところあって、沢田綱吉の神社への偏見による思いつきを採用した。たとえ少しでも、正規の金と物の流れがあれば、非正規の金と物の流れを隠匿しやすい。また「神社にはおみくじとお守りがないと」という非常に子供っぽい思考は、実は雲雀も少しだけ持っていたものであったし、(当時は)どこが遠慮がちで、めったに甘えたことを言わなかった沢田綱吉の、めずらしい恋人へのわがままだったので叶えたかった。

 そんなわけで、高校生の雲雀は秘密裏に、無人のおみくじ販売とお守りを一種だけ、準備を進めて、業者から納入されたお守りの試作品を、高校受験直前だった沢田綱吉に贈った。その時の彼の顔を見て、雲雀は「自分でも、他人の喜ぶ顔を見てこんな気持ちになることがあるものなのか」と思ったものだ。

 雲雀は無言で、久しぶりに自分の手元へ戻ってきた古いお守りの紐をつまんで、目の前にぶら下げた。つらつらと眺めて、ふん、と鼻息一つ。ぽんと文机の上にそれを投げ出すと、今度はくしゃくしゃのコピー用紙のほうを取り上げて、そちらをカバンのポケットへ入れた。