12月15日

 人々の笑いさざめきが天井の高いホールに満ちている。シャンデリアがちらちらと光って、雲雀はふと9日のカレンダーから出てきたスワロフスキーを思い出した。

 ホンコンのクリスマス
 母さんが行ってみたいって
 さわいでたことがあります
 イルミネーションきれいですか?

 誰が見ていたとしても雲雀の動きは、ボーイから飲み物を受け取っただけ、に見えただろう。朝方、穴蔵の情報屋から受け取ったDVD、中身は頭の中へしまってディスクは破棄した。今朝ディスプレイ越しに見た顔と斜め後ろの男の顔。いかつい両手には指輪だらけなのも確認した。グラスを手にして、男が連れている護衛が反応しない程度に接近する。

「きれいなもの、なんて、」

 日本語がこぼれ落ちた。高級ホテルの大広間、着飾った男女と酒と食事、ジャズバンドの生演奏、その中に、黒スーツではかえって目立つからと珍しく紺のジャケットを羽織った雲雀は、心からうんざりしているのだ。

 どん、と少し遠くでこもったような爆発音が聞こえた。会場がざわめき、一瞬の後に照明が落ちる。グラスなどが砕ける音、女の悲鳴、男の怒号、裏社会の人間の多い集まりだから、こうなれば自分が狙われたのではないかと皆が右往左往する。

「クリスマスの赤は、血の色なんだっけ?」

 爆発は断続的に場所を変えて起こっている。電気系統を一時的に使えなくするための最初の爆発以外はフェイクだが、風紀の研究所で作らせた爆破装置はなかなか良い働きをするようだ。騒々しさの中で、雲雀の行動は目立たない。ごとん、と重い音、すばやく回収する。手首で綺麗に切り落とした、指輪だらけの手が二つ。まだ酸化もしない血液の赤は美しいが、欲を掴んできた肉の塊は醜い。獣の鳴き声のような悲鳴。

 殺した方が手っ取り早いのだ。群れに囲まれる苛立ちにまかせて暴れたくもある。けれど、そうしない。胸ポケットの中で紙片がかさかさと音を立てる。

「今日で半分か、」

 脳裏で暦を数える。30日まで長すぎるように思えて、気が滅入った。