12月17日

 空港から迎えの車に乗り、執務室で留守中に溜まった雑事をこなして、帰宅したのは22時を回る頃である。食事も外で済ませてきたから、後は風呂に入って寝るだけだ。荷解き、と言うほどの荷物でもない。――と思いながら、雲雀が自室でまずしたことは、ノートPCも取り出してすっかり小さくなったカバンに手を突っ込むことだった。

 並盛へおかえりなさい!
 ひばりさんのことだから
 薬やばんそうこうは使わなかったと
 思うけど
 無事に帰ってきていることを
 いのります

 くしゃくしゃのコピー用紙に目を通して、何かが気になって、何が気になるのか自分でもわからないまま、目だけが何度も汚い文字の上を往復した。薬もばんそうこうも予想外に役に立った、そのことではなくて、お守りは持っていかなかったからね、そのことでもなくて、

「…………ただいま、」

 ほ、と息を吐いた。言った途端、気づかずにいた疲労がどっと襲ってきた。香港なんて子供の頃から親の使いで何度も行っている、雲雀の感覚としては「海外」と言うほど遠くはないところのはずなのに。仕事のために故意に緊張させていた意識が弛緩する。大きなあくびがでる。

「風呂、」

 のろのろと腰を上げる。風呂に入らずに寝るという選択肢は雲雀にはない。けれど猛烈に眠くなってきて、このままでは浴槽で溺死してしまいそうだったので、梅仁丹を口に入れた。きゅうっと頬がくぼむ。その感じに何となく笑って、ただ、沢田綱吉と直接、「おかえりなさい」と言われて「ただいま」と返したかった、と思った。