12月19日
今日はエディット・ピアフの
誕生日だそうです
PCからは「ばら色の人生」が時代を示すノイズと共に流れている。19の小窓に付箋を貼られて入っていた、SDカードの中のデータだ。昨日の午後から今日にかけて、土日を犠牲にしたデスクワークの結果、香港出張中に堆積した書類の地層は全て掘り返され、署名され、運び出されていった。デスクの上には休日出勤中の部下に休憩がてら取りに行かせた「クリスマス期間限定 高級生菓子セット『きよしこの夜』」の箱が入ったビニール手提げが鎮座している。15時、いわゆる「おやつの時間」、雲雀は携帯電話の通話を終了し、ぱちんと閉じた。いつの間にか「愛の賛歌」に変わっていた音楽データの再生を止め、PCを待機状態にする。沢田綱吉がこの世で最も恐れる元家庭教師との裏取引が成立したのだ。
給湯室に行き、風呂敷を広げる。千歳盆に茶道具を組んで蓋をし、上に菓子の箱を乗せて包んだ。大きな風呂敷包みを胸に抱えて歩く雲雀の姿は平日なら人目を惹いただろうが、日曜日であれば風紀の人間はほとんどいない。ボンゴレ並盛支部は年中無休で通常営業だが、雲雀が何をしていようが誰もが目をあわさず足早に立ち去るばかりだ。何の障害も無く、ボンゴレ十代目の執務室の扉の前に立つ。ノックはせずに扉を開ける。
「リボーン、急かされたって書類はまだ、…………」
言いながら顔を上げた沢田綱吉が、酷いクマと少しこけた頬で口を半開きにしたまま停止して、半分くらい閉じられていたまぶたが、ぱちぱち、と瞬きする。雲雀は室内に入って後ろ手に戸を閉めた。
「予定が変わったよ。君は今から17時まで僕と会談、終わらなければ夕食をとりながら18時まで延長」
「え、えっ?何、うそ、ちょっと、リボー、ぎゃぶっ!」
革張りのチェアから勢い良く立ち上がった彼は、多忙で貧血気味だったのか、そのまま大理石の床へ景気良く顔からダイブした。風呂敷包みを足元に置いて、雲雀はつかつかと歩みを進めると、常よりもさらにひどいぼさぼさの頭の傍でしゃがみ込んでくいくいと毛束をひっぱった。
「茶と茶菓子は持参したから、気遣いなく?」
小さな子供を助け起こすように脇の下に手を入れて起こし、床の上にあぐらをかいた自分の膝の上に、ますます軽くなった気がする沢田の身体を乗せてぎゅっと抱き込む。ゆっくりと伸びてきた手が何度か雲雀の背中を撫でて、それからしっかりと抱き返してきた。30秒ほど黙っていただろうか、ほう、と2人同時に安心したようなため息をついて、顔を見合わせて笑ってしまった。
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