12月20日

 機嫌が良い、という自覚はあった。昨日の、沢田綱吉の元家庭教師との裏取引により今年中に雲雀が済ませなければならない仕事はかなり増えたが、好まないデスクワークにも気力充実、逆に、いくらでも片付けてやろうではないか、という心の余裕すらあった。いつもより早めの起床、ここのところ適当に済ませがちだった朝食もちゃんと食べて、草壁あたりに「恭さん、今日は何だかはりきってますね」などと言われたらきっと雲雀はむきになって否定しただろうけれど、やっぱり全力ではりきっていたのである。

 正午、猫のような伸びをした雲雀は、昼食前にもう一仕事、と重い添付ファイルのついたメールを一件開いた。メール本文を読んで、添付されたPDFを展開する。と、そこで、入室の許可を求めるノックが響いた。いつものように「入りなよ」と答えようとして、はっとした。

 鼻歌を歌っていたのだ。

 まったくの無意識だった。返事をするために口を開こうとして、ようやく気づいた。朝からずっと、ふーんふんふんふふんふふーん、並盛中学校校歌、だ。顔を覆ってデスクに突っ伏した。何やってんですか、と訝しげな草壁が入室してくる。わかっている。こんなことをやっている時間はないのだ。目の前の仕事からどんどんこなしていかなければ、自分の正月休暇が危ない。けれど、

「恥ずかしい……!」

 昨日の沢田綱吉との逢瀬から、どれだけ浮かれていたのか。草壁が「恭さんが恥ずかしいのは別に今に始まったことじゃあありませんよ」とか何とか、わりと聞き捨てならないことを言ったような気がしたが、それを追求する気力さえ、今はなかった。