12月21日

 腕時計を見た。しょっちゅう着けたまま乱闘しているわりには長い間買い換えずに済んでいるムーンフェイズ、示しているのは欠けるところのない満月、時刻は17時を回ったところだ。冷めて気の抜けたようになってしまったコーヒーを喉を潤すためだけに一口、それからデスクの引き出しを開けた。もう開いていない窓の方が少なくなったアドベントカレンダー。

 21と書かれた小窓を開くと、まず白くて丸い物体が目に飛び込んできた。ピンポン玉より少し小さいくらいだろうか、表面はざらざらしている。今時どこに行ったら買えるものか、駄菓子屋で1個売りしているような、砂糖をまぶした巨大な飴玉だ。それが透明なビニールにくるまれて入っている。見ているだけで口の中が痛くなりそうな砂糖の塊を引っ張り出すと、その下にはもうおなじみとなった結び文がちょこんと存在を主張していた。

 今日は満月です!
 天気はいいのかな
 冬の学校帰りによく
 ひばりさんと月を見ましたね

 今日は良く晴れて乾燥した一日だったから、このまま明日の朝まで空が曇ることはないだろう。けれど、

「皆既月蝕、」

 今夜の月は蝕の状態で上ってくる。ちょうど今時分か、東の空が開けているところへ行けば赤く翳った月を見られるはずだ。この結び文を書いたとき、沢田綱吉は月蝕のことを知らなかったのだろう。知っていたら書かないわけがない。つん、と指で突くと、大きな飴がごろりと転がる。今夜こんなまん丸の白い月が見られるのは20時過ぎになる。

 雲雀は、今は蝕になっているはずの月の代わりに、呆れるほど大きな丸い飴を口の中へ放り込んだ。ぱらぱらと書類の上に砂糖がこぼれたのを眉を寄せてちらりと見て、けれどそのまま目を閉じた。想像通り、いっそ暴力的なほどざらざらとまぶされた砂糖が咥内を傷つける上に甘くてかなわない。舌で転がそうにも、大きすぎて口の中で動かすこともできない。自分の頬に指先で触れてみると、飴の形にぽっこりと丸く膨らんでいる。きっと今とても滑稽な顔をしているだろう。小さな子供のような。

 どうせなら、沢田綱吉にこんな顔をさせて、自分は見る側でいたかった。口の中がいっぱいでため息もつけない。ようやく砂糖が溶けて、飴からは甘ったるいバナナの香りがした。同じ白でも、まだハッカかレモンあたりならもっと食べやすかったものを。うんざりしながら、それでも雲雀は飴玉を吐き出すことはできなかった。