12月22日

 師走も差し迫った街は忙しない。クリスマス前とあれば冷たい空気にもどこか活気が感じられた。やっと18時になったばかりだが、冬至の夜の帳はもうすっかり下りて、並盛商店街は各商店がウィンドウに飾り付けたささやかなイルミネーションに彩られている。雲雀は足早に歩きながらも、風紀を乱す群れはないかと密かに視線を走らせた。並盛商工会議所の今年最後の寄り合いに顔を出した帰りである。

 ぱたぱたと音をたてて夜風に黒いコートの裾が翻った。脚に絡むのをさっと払う。冬の夜の乾いた匂いがして、真っ暗になっても構わずにトンファーを振り回していた昔のことを思い出す。子供の頃はどんなに寒くても、動きを妨げるような上着の類を身に着けることをしなかった。今でも好きではないが、ここ数年は冬になればコートを着込んでいる……沢田綱吉があまりにも心配するので。

 正直なことを言うと雲雀は、沢田綱吉に心配されるのがとても好きだ。表情どころか全身で「雲雀さんが無茶するから心配です」と訴えながら、はらはらと自分の一挙一動に神経を集中されるのは、心底気分が良い。ただ、以前はそれを本当に楽しんでいたが、ここ数年はやっと、それでもあまりに大人気ないかと思い直して多少の生活の改善を図っているところである。

 半分シャッターを閉めた店じまいの途中の八百屋の店頭で、「カボチャ 売り切れ ユズ まだあります」という張り紙がぺらぺらとなびいていた。

 かぼちゃはさすがに
 入れられませんでした
 ちゃんと食べてくださいね
 ひばりさんは
 すぐカゼこじらせるから
 心配です

 カレンダーに入っていたのは柚子の入浴剤だった。ここのところシャワーで済ませていたけれど、今日は浴槽に湯を張るつもりだ。それにしても、

「君こそ食べるべきじゃないの、」

 三日前に膝に抱き上げた沢田綱吉のことを思う。いつの間にか雲雀よりも身長が高くなったくせに、どう見積もっても確実に雲雀より軽い。雲雀が自身の生活の改善を図り始めたころから、逆に彼の心配をすることが増えているのじゃないか、あの時触れた着衣越しにも浮き出たあばらを思い出して、てのひらを見ながらため息をついた。