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12月23日
  
 雲雀がアルコールに弱いというのは自他共に認めるところである。と言っても、風紀とボンゴレの関係者以外でそのことを知る者は少ない。雲雀が公の場に姿を現すことは滅多にないし、それが酒を供されるような席ならば片手の指で足りるほどしか顔を見せたことはないからだ。例えば、昨日の商工会議所の寄り合いだって、会議の後はマイクロバスのお迎えに乗り込んで忘年会、という流れだったのだけれど、もちろん参加はしなかった。他のメンバーだって、雲雀に参加されたくはなかったろうが。
  
 群れて騒ぐ有象無象の中に混じるなど我慢ならない、というのが雲雀の言い分であるが、風紀全体、またボンゴレの意思として、謎に包まれた風紀の頂点、ボンゴレ]世最強の守護者が、清酒の一口でくにゃんくにゃんになってしまうというスキャンダラスな事実は隠しておくに限る、すなわち、たとえ雲雀が酒宴に参加したいと言ったところで、内輪の飲み会でもない限り、二つの組織の総力を挙げて阻止されるのである。
  
 何より、沢田綱吉が。
  
 忘年会シーズンですね 
 紫水晶は色が 
 ひばりさんにぴったりって 
 思ってましたけど 
 アメジストって 
 酒に酔わない、ていう 
 意味だそうです! 
 (もしかしてそんなこと 
  とっくに知ってました?) 
 でかける時は 
 ぜひとも身につけてください
  
「本当に忘年会に行ったら怒るくせに」
  
 何言ってるの、と呆れた半眼で紙切れを見る雲雀の手の中で、紫水晶のカフスボタンがちゃりりと音を立てる。
  
 互いに合法に飲酒できる年齢になって、初めて差し向かいで杯を交わした時、へべれけになった雲雀を見て、酔ってもいない彼が真っ赤になった。曰く、色気が増し増し、大増量5倍増し、絶対にオレのいないところで呑んだらダメです!、主張は理解しがたかったが、雲雀が酔っ払うと沢田綱吉が欲情するようであったので、それはそれでいいか、と軽く考えていた。しばらく後に、来日した跳ね馬が良い酒を持って来たと言ってウワバミの彼は抜きで封を切った。言うだけのことはある、と舌鼓を打った後の記憶は曖昧だが、跳ね馬が送信した写真つきメールによって文字通り飛んできた沢田綱吉の、阿修羅のような様は忘れがたい。
  
 ……その後寝室で起こったあれこれも忘れがたい。
  
 執務室には不似合いな桃色がかった過去の記憶にしばし思いを馳せていた雲雀は、頬に上った熱を伴う赤色に気づくと、誰も見ている者はいないというのに、誤魔化すようにごほんとひとつ咳払いした。 
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