12月26日

 日曜日だが、廊下で数人の職員とすれ違った。既に年の瀬、有給を利用して昨日から冬期休業にしている者もいるし、年内に片付けなければならない仕事が終わらなくて休日出勤している者もいる。雲雀のように。前倒しで自分の研究室の大掃除をやっている者もいるようだった。早々と注連飾りのついている扉もある。昨日まではクリスマスリースだったはずだ。

 片手に近所のベーカリーの袋を提げた雲雀は、こき、と首を回した。赤ん坊との取引で引き受けたボンゴレの仕事も、風紀で片付けなければならない仕事も、ようやく先が見えてきた。やれやれと息をついて、それから袋の中身が傾いてやしないかと慌てて持ち直す。ライ麦を使った黒パンがおいしいベーカリーはイートインもやっていて、昼時はスープのテイクアウトができるのだ。この店を教えてくれたのは沢田奈々だった。沢田綱吉が高校を卒業した時「オレ雲雀さんと一生一緒にいます」と雲雀を紹介して以来、息子同様に扱ってくれる。年始の挨拶に顔を出すときの手土産を忘れないうちに買っておかなければ、と心のメモ帳に書き留める。

 執務室へ戻ると机の上に昼食を並べた。紙カップに入ったミネストローネは無事だった。ライ麦パン、チーズペーストのミニカップ、りんごのケーキ。プラスチックのフォークとスプーン。インスタントコーヒー。まずはずっと一口、紙カップから直接ミネストローネをすすって、トマトの酸味を味わいながらカレンダーを開けた。扉の向こうの小さな空間には白い陶器の兎が鎮座している。大きさ的に箸置きだろうか、少しグレーがかったぽってりとした釉薬が、陶器なのに暖かそうで可愛らしい。兎は来年の干支だ。

 前、バジル君が 日本では
 25日を過ぎるとツリーがなくなる
 ってすごくびっくりしてました
 今日の並盛も
 きっともうお正月モードですね
 25日までと 26日からって
 町の空気がぜんぜん違います
 早く早くって来年から呼ばれてるみたい
 オレは早く早くって
 ひばりさんを呼んでますけど!

「仕事は終わりそうなの、」

 彼がこれを書いたのは随分前で、しかもこんなところで呟いても届きはしないとわかった上で、指先で兎を撫でながら雲雀は問いかけた。商店街は、掃除道具を抱えたり、おせちの材料を買い込んで、足早に歩く姿が多かった。新年から急かされているように。

「僕は予定通り休みを取れそうだからね。君が休めなかったら、年越しそばも奈々さんのおせちも一人で食べちゃうよ?」

 雲雀も、早く早くと沢田綱吉を呼んでいる。