12月28日
上階の音が響いてくるほどの安普請ではない。むしろ、よほどの戦闘でもない限り破壊されることもない強度を誇っている風紀本部だが、今日は何だか建物全体がざわついているような気がする。今日で一般職員は仕事納め、大掃除をやっている部署が多いのだ。事務職と研究職は勤務形態が違うが、年末年始はほとんどの者が休みを取る。
「大きなゴミがあれば廊下に出しておいてください」
草壁に声をかけられて、ん、と雲雀は気のない様子で頷いた。トップの右腕という立場でありながら、ぞうきんとバケツ、トイレのすっぽんまで持って、あちらへ行ったりこちらへ行ったり、本人は毎年「最近の若いのは掃除のしかたも知らない」(草壁は自分がまだ成人式を終えて何年も経っていないということを忘れているようだ)などと言って仕方なさそうに檄を飛ばしているが、実際のところ草壁がいなければ大掃除も終わらない、などということはさすがになく、雲雀には単に草壁自身が大掃除という行事に張り切っているだけに見えるのだ。
「掃除は誰かに任せて、早くこっちへ戻ってきなよね」
大掃除は終わらなくても何の問題もないが、雲雀の仕事は終わらなくてはかなりの問題がある。公的にも、私的にも。草壁がいなくては書類仕事の効率が悪い。しかし本人は「スンマセーン」という若者の声に呼ばれて既に姿はなく、ため息交じりの雲雀のぼやきを聞く者はない。
雲雀はゴミをあまり出さない。それは別にエコだの何だのというわけではなくて、そもそも私物が少ないから、捨てるものも生まれないのだ。物に対する執着心が薄いので、必要なものなら手元に置くが、必要なければその都度処分する。書類は機密が多いのでボンゴレと共同の専用処理施設で廃棄するし、掃き掃除、拭き掃除も、今張り切っている草壁の手によって、汚れる前に日々さりげなく行なわれている。
一応、デスクの上を見渡してはみたが、やはり本当に必要なものしかない。引き出しの中も、開けずとも何が入っているのか言うことができる。そのくらいのものしか入れていない。小物の黒と紙の白と、調度品は高級なのに殺風景な仕事場である。
その中で、文鎮代わりの星のオーナメントと、PCディスプレイの脇に置かれた兎の箸置きが暖かな色合いを添えていた。クリスマス色の強いブーツのオーナメントは自宅の文机の引き出しにしまったし、サンキャッチャーは日光の当たる部屋へ持って行った。アメジストのカフスはクローゼットの中だ。考えてみれば、自宅も、生活に最低限必要なもの以外は、ほとんどが沢田綱吉に関係するものだ。いろいろなものがあちこちに詰め込まれた雑然とした彼の私室を思い出す。何だかんだと言って優秀な右腕である獄寺がなんとか体面を保つことに成功している執務室だって、印象はどこかにぎやかだ。沢田綱吉と一緒に暮らしたら、おそらく自分はしょっちゅう彼に説教をしなくてはいけないだろう、と考えて、それは不快なことのはずなのに雲雀は笑った。
はかどらない書類をなげうって、カレンダーを開いてみた。今日入っていたのは、個包装のごんじりである。ぬるくなってしまった茶のお茶請けにパッケージを破ろうとして、貼ってある付箋の文字を読んで思いとどまった。
風紀は大掃除ですね
おしるこのお供にどうぞ
大掃除の最後には、草壁がしるこを作って振舞うのが毎年のことだった。しるこが出てくるまで草壁は戻ってこない。雲雀は、渋みの強い茶をぐっと飲み干すと、執務室ではできない仕事をするためにコートを持って外へ出た。
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