12月30日の2

 簡単に開錠できるはずの部屋の主がわざわざ、ぴんぽんとインターホンを鳴らしたのは17時を15分も過ぎていない時刻だった。勝手知ったる他人の部屋で土鍋を掘り出してみぞれ鍋の下ごしらえをしていた雲雀は、この先起こることを予想して(期待して、と言ってもいいかもしれなかった)、使っていた火を止め手を洗い、前掛けで拭いながら扉を開けた。

「雲雀さん!!」

 開けた瞬間にぐっと扉を引っ張られてよろけた雲雀は、帰宅した沢田綱吉にそのままどしんと激突した。避けようと思えば避けられたが、避けようと思わなかっただけの話である。そのままぎゅうとしがみつかれて、すりすりと顔を髪に埋められた。マフィアのボスになってなお戦闘を嫌がる沢田綱吉が、今は雲雀よりも身長が高いのだということを実感するのはこんな時くらいしかない。非常に残念なことだ。

「ただいまかえりましたあ」
「おかえり、……おつかれ、」

 よれたスーツにへにょへにょの声で懐かれて、よしよしと背中を撫でた。雲雀も黒いスーツの肩口にあごなど乗せてみる。

「雲雀さんの匂いがする、」

 いつまでも玄関先にいないで室内に移動したい、と思うものの、これほどよれよれになった沢田を無理に引き剥がすのも気が引ける、と迷っていたが、その言葉で気づいたことがあって、べり、と張り付いていたひょろ長い身体を引きはがした。

「君はなんかくさい、風呂は、」
「ふ、冬だからいいかなー、なんて、」
「…………最後に入ったのはいつ?」
「えと、……おとつい?じゃないや、その前?えーと、ん?もっと前?」

 年末で外部の人間との会談もなかったのだろう。半眼になった雲雀は有無を言わさず首根っこを掴むと、部屋の主を浴室までずるずると引きずって行った。風呂を沸かしておいたのは気を利かせたつもりだったのだが、沸かしておいて良かった、と当初とは違う意味で思った。ぽい、と脱衣所に放り込む。沢田の体臭は雲雀にとっては好ましいものだ。しかし、不潔、というのはまた別の話である。風呂が既に沸かしてあることに気づいた沢田が尻餅をついたまま驚いたように目を丸くした。あわよくば一緒に、という打算もあって準備をしたが、そちらはお預けである。

「ゆっくり垢落としといで、」
「ありがとうございます、」

 にへ、と崩れた顔で幸せそうに礼を言われれば、眉をしかめているのも難しい。結局苦笑して、よく温まってきなよ、とぼさぼさの髪を撫でてやった。嬉しそうに目を細めて撫でられている姿は、背が高くなっても学生時代と変わらずチワワに見えた。

「夜は一緒に入ろう、」
「一緒なら、雲雀さんとこの大きな風呂がいいなあ、だめですか?」
「かまわないけど、」

 ねだるように言われて返事をしながらも、きっとその頃には自分も沢田も、腹もくちくなって風紀の浴室まで移動するのはおっくうになっているだろう、何しろ片道10分だ、と考えて雲雀は少し笑った。