12月30日の5
「ん、」
ふっと目が覚めた。目が覚めたということは、眠っていたということだ。腰までこたつに入っていて、上半身には暖かなウールのひざ掛けが掛けられていた。首の後ろには枕代わりのクッションがあてがってあった。水の音がしていた。もそもそと起き上がると、キッチンに立って洗い物をしていたらしい沢田が振り返った。
「ごめんなさい、うるさかったですか、」
ふるふると首を横に振ると、ほわ、と笑った。手を拭いて、熱いお茶を淹れると、こたつまで運んできてくれる。湯気の立つ烏龍茶を飲むと、酒を飲んでいい気分になって、そのまま沢田に寄りかかって眠ってしまったんだった、と思い出した。くわあ、とあくびが出た。
「鍋の〆は雑炊にしたんですけど、食べますか?」
「たべる」
いつの間にかみぞれ鍋の土鍋はキッチンのコンロの上に移されていて、こたつの上は綺麗に片付けられていた。真ん中にみかんを盛った小さなカゴが乗っている。雲雀がこの部屋に来た時にはなかった。みかんを一つ手に取りしげしげと眺めていると、お正月って感じでいいでしょう、とキッチンから沢田が笑った。
もみ海苔と三つ葉が散らされた雑炊をふうふうと吹きながらすすると、ようやく頭がはっきりしてきた。オレももう一回食べよう、と沢田も隣で雑炊をすすっている。
「いまなんじ?」
雲雀は基本的にこういうことは言わない。雲雀が今何時なのかわからないような場面で、他の人間が時刻を把握していることが少ないし、そうでなくても自分で時計を見た方が早い。けれど沢田には意識せずともこういう疑問が口をついて出てくる。単に甘えているのだ。自分が問いかけたことに答えて欲しいという、小さな子供のような。
「まだ早いですよ。10時ちょい過ぎくらいです」
2時間ほど眠っていたらしい。こきこきと首を鳴らした。アルコールは程よく抜けている。残るほど飲む前につぶれてしまったからだが。
「風呂、沸かしなおしましたけど、入りますか?」
はにかむように、けれど誘う視線で、隣から沢田が覗き込んできた。当然のことながら否やはない。ないけれど、どうしても言いたくなって雲雀は訊ねた。
「うちの風呂じゃなくていいの、」
「いやあ、雲雀さんちまで行くのが、おっくうになっちゃって」
でへへ、と笑う沢田から予想したとおりの返事があった。突然、自分は昔と比べて沢田のことがかなりわかるようになってきた、と嬉しくなって、雲雀は沢田に、ぎゅう、と抱きついた。鍋の出汁の匂いがした。沢田はきっと雲雀がどうして抱きついたのだかわかりはしなかっただろうが、雲雀が抱きついたから笑った。
「うん、風呂入ろう」
「入浴剤いれましょう。何がいいです?」
見て選んでください、と沢田が、雲雀を促しながら立ち上がる。雲雀の頭の中には、風呂の中で沢田にしてもらいたいことやしたいことが、一遍に100も200も浮かんで、優先順位に整列し始めた。10くらいはできるだろうか、と考える。
「明日は何か予定あるの、」
風呂に入る前に翌日の予定を訊く、という奇妙にも思える行動に、沢田はちゃんと意味がわかっていて、照れた顔で答えてくれた。
「ちょっと部屋を片付けて、あとは夕方母さんのとこにおせちを取りに行って、紅白が始まるまでに蕎麦を茹でておつゆを作って、……その程度です」
雲雀はその回答を、昼過ぎまではベッドから出なくても良い、という意味に受け取った。間違ってはいないと思った。
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