11月30日

「本日の郵便物です」

 スーツには不似合いな大きなリーゼントを揺らす草壁哲矢が、黒い塗りの盆に手紙や書類を乗せて執務室へやって来る。何と言うことはない日常の光景なのだけれど、今日の腹心はどこか、含み笑いのようなものをそのいかつい頬に乗せているような気がして、雲雀は不審げにねめつけた。

「どうぞ、」

 長い付き合いだ。このくらいの眼光には怯むこともなく、草壁はただいつも通り盆を差し出す。雲雀は少々むっとしながらも、それを受け取ろうとして、ん、と動きを止めた。やけに、――嵩が高い。

「何これ」

 積み重なった封筒の一番下、白い、菓子箱だろうか。厚紙でできた、温泉まんじゅうでも入っていそうな、ありふれた箱である。

「これも郵便物なの」
「お隣からで、」

 伸ばされた指が、ぴくりと止まった。お隣と言えば、それはそう、ボンゴレ並盛支部を指す言葉に他ならないわけで、そのお隣さんのトップは、可愛くて男前の、雲雀の彼氏である。草壁はもう笑みを隠そうともしていない。

「……そこに、置いて行きなよ。後で見るから」

 言外に下がれと言えば、草壁の顔が残念そうになったと思うのは、雲雀の被害妄想かもしれない。「郵便物」満載の盆をデスクに置くと、腹心の部下は一礼して部屋から出て行った。

 誰もいないのに、取り繕うように咳払いをひとつして、雲雀はまず、積み重なった一番上の封筒を手に取った。クリスマスパーティーの案内。迷わず捨てる。二番目は、トンファーの手入れや購入を頼んでいる店からの、年末年始の営業の案内。休日を頭に入れてはがきは捨てる。三番目、同窓会の……

「ああもう、」

 雲雀はそこでようやく素直になって、ばさばさと封筒を跳ね除けると、一番下の白い箱を取った。蓋にはつたないクリスマスツリーの絵が描いてあって、オーナメントの代わりに色とりどりに数字がいくつも書かれ、その部分を切り抜いて小さな扉が作ってあった。不器用者が慣れない工作をしたらしい跡があちこちに見られる。蓋と本体は離れないように接着してあって、揺らすと中からはかさこそと賑やかな音がした。側面に、指紋の着いてよじれたセロハンテープで、四つ折りのコピー用紙が留めてある。むしるように外すと、広げて読んだ。


 ひばりさんへ

 元気ですか?毎日寒いけど、風邪なんかひいていませんか?
 となりにいるのに、もうずいぶんひばりさんに会ってない気がします。

 年末年始はお休み取れるって聞きました(くさかべさんから!)
 オレもどうあっても休むつもりです
 でもやっぱりリボーンはこわいので、いま「死ぬ気」で仕事をしています
 ひばりさんと一緒にこたつでおそば食べながら紅白見たい!

 クリスマスはどう考えても会えそうにありません
 だから先にプレゼントあげておきます
 ひばりさんはアドベントカレンダーってもらったことありますか?
 オレは子供のころ、九代目からもらったことがあります

 明日から番号のじゅんばんで一つずつとびらを開けてください
 ほんとうはクリスマスで終わりなんだけど
 ひばりさんのお休みがはじまる30日までつくりました
 これが全部開いたらオレもお休みです(ひばりさんに会える!)

 九代目からもらったのは、さいしょの日にランボが全部あけちゃいました
 ひばりさんは1日1個、ちゃんとがまんできますか?
 ……なんてね、まさか捨てちゃうとは思わないけど
 忘れないで開けてくださいね。けっこうがんばって作ったんですよ!

 つなよし


「ばーか、もっと漢字を使いなよ」

 悪態をつく顔は柔らかい。とん、と指先で菓子箱……アドベントカレンダーを弾けば、何が入っているのか、りん、とかすかに鈴の音がした。