日曜日。オレは家の前で雲雀さんの迎えを待っている。クリスマスツリー、というか、もみの木を、山へ採りに行くのだ。子供たちに言えばついて行きたいと言われるのは目に見えているので、母さんとリボーンにしか言ってない。大きなクリスマスツリーが調達できるかもしれない、と聞いた母さん(ロマンを愛する)はたいそう喜んで、弁当まで持たせてくれた。
外に出るのがちょっと早すぎたろうか、雲雀さんはなかなか来ない。汚れてもいい服装で、ということだったから、一番古いジーンズと、ネルシャツに毛玉のできたトレーナー、その上から父さんが置いていった現場作業員みたいなジャンバーを羽織ってみたけど、もうちょっと小ぎれいでも良かったかな、とだんだん不安になってきて、自分の格好を見下ろす。手を上げてみたり、背中を見ようと身をよじったりしていると、向こうから軽トラックがやってくるのが見えたので、オレは家の門の中へよけた。のに、軽トラはうちの前で停まった。
「なんで逃げるの。」
って雲雀さんかい!
白い軽トラの運転席の窓から、不満そうな声をあげたのは、他でもない雲雀恭弥その人だった。もう何でもありだなこの人。窓からは上半身しか見えないけど、黒い作業服の上下を着てるみたいだ。
「雲雀さんだとは思わなかったもので……」
「荷物を運ぶときは軽トラに限るよ。大きいのがいいんでしょ、ツリー」
「はい。」
本当は、大きなツリーが欲しいのは、ランボであり、ロマンを愛する母さんであるのだけれど、本物のもみの木の、大きなクリスマスツリーが手に入ったら、ランボや母さんや、他のみんなも、きっとすごく喜ぶんだろうと思うと、それはオレの欲しい物にもなるのだった。不思議だ。
そんなわけで、気合を込めて返事をしたオレを、雲雀さんはどことなく嬉しそうに見た。
「その格好なら、いいね。じゃ乗って。荷物は後ろに置く?座席は狭いけど。」
「弁当が入ってるから抱えていきます。」
「ワオ、やる気だね」
いやそれは主に母さんが。
「雲雀さんの分もって、かー……母が作ってくれたんですけど」
「いただくよ、ありがとう。軽トラは揺れるから、しっかり持ってな」
助手席に乗り込むと、雲雀さんが言うだけあって、直角に固定された硬いシートは広いとは言い難いけれど、そもそも自動車に乗ることがほとんどないのだから、軽トラだからどうこうと比較もできない。こういうもんか、と思うだけである。これより前に乗った車はディーノさんのフェラーリが最後だ。あれは縦方向に狭かった。そういえば、フェラーリは2シーターだったけど、軽トラも2シーターだな。
「シートベルト。」
「あっ、はい!」
がちゃがちゃやってる間に、がこ、とギアがニュートラルからセカンドに入る。セカンド発進。ああ、うちまでこれに乗ってきたんだから当たり前なんだけど、ほんとに運転しちゃってるよ……。
「……荷台に乗ってみたいです。」
「道交法違反だよ。」
「………………無免はいいんですか?」
がこ、がこ。
「わー雲雀さん、運転中にトンファーはやめてください!うわっ、いてっ、ちょ、前見て!前!!」
目的地に着くまでに、事故は起こさなかったけれど、オレはぼこぼこになった。都合の悪いことをトンファーでごまかそうとするのは、雲雀さんのいけないところだと思う!
20分ほどで到着したのは、並盛郊外の山の中だった。隣町へと抜ける林道の途中で、路肩の広いところへ軽トラを駐車する。
「このあたりの山は、自由にしていいことになってるから。」
風紀委員が、なのか、雲雀さん個人が、なのか、それはどういった理由で自由にしていいのか、聞きたいような、聞いてはいけないような、もじゃもじゃと落ち着かない気持ちになる言葉だ。と思っていたら、雲雀さんが眉間にシワを寄せた。
「単に、雲雀家が所有してるってだけのことだよ。」
「……オレ、顔に出てました?」
「出てた。気になるんなら訊きなよね、何でも。」
恐ろしいことを言われそうだから訊かなかっただけなのだけど、雲雀さんの言葉は、単純に今のことだけではない含みがあった気がした。
「ほら、行くよ。迷子になったら捨てていくからね。」
ちょっと考えていると、腰に鉈と鋸を下げた雲雀さんはけもの道をどんどん行ってしまう。
「わっ、待ってください!」
弁当と水筒とタオルしか入ってないナップサックを背負うと、オレは慌てて後を追った。
※公道における、無免許運転、および、軽トラックの荷台に乗る行為は、犯罪です。 この文章は、それらの行為を推奨するものではありません。
2008年12月17日
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