昨夜みたいに、雲雀さんと二人で洗い物を片付けてたら、玄関のチャイムが鳴った。
「クリスマスおめでとーございまっす!」
 それは何か違うんじゃないの山本、と思っていると、すぐにツッコミが入る。
「意味がわかんねーんだよ、この野球バカ!」
 母さんの、どうぞ上がって、って迎える声がしたと思ったら、両手に大荷物を持った二人がすぐに台所までやって来た。
「十代目!おはようございます!」
「はよーす、」
 オレは最後の一枚の皿、母さんが雲雀さん用に出しといてくれた、来客用の花柄のを、食器棚のちょっと高いところへしまおうと背伸びをしていて、雲雀さんは、危ないな、と言いながら後ろから、オレの肩に手を置いて、それを手伝おうとしてくれているところだった。
「おー、ヒバリ!新婚さんみてーだな」
「何でてめーがここにいやがる!」
「……山本、獄寺くん、おはよー、買出しありがとう」
 食器棚の扉を閉めて、ははは、と乾いた笑いで答えると、雲雀さんは機嫌よく、新婚さんだって、と言いながらまたおんぶおばけになった。都合のいいところしか聞いてない。
「なっ、てめー、十代目から離れろっ」
「これ、ジュースと、菓子なー。あと、親父から、ちらし寿司差し入れだって」
「ええ、いつももらっちゃって悪いなぁ……気つかわせて、ごめんね」
「ツナこそ気ィつかうなって。親父はこーゆーの、好きなんだからさ。」
「そっか。いつもありがとう。今度直接お礼に行くけど、山本からも伝えておいて」
「おー」
 ビニール袋を覗き込んで、思いがけない差し入れに、申し訳なかったり嬉しかったりしてると、獄寺くんが焦れたように足を踏み鳴らした。
「だーっかーっらーっ、ヒバリぃっ、十代目から、離れろっ!ご迷惑だろうが!!」
「やだ。沢田が何にも言わないのに、どうして君に迷惑がられなきゃいけないの」
 昨日の夕方、オレが思っていた通り、雲雀さんは多分このままクリスマスパーティーにも出るだろう。けど、パーティーに来るのはもちろん、ディーノさんと山本と獄寺くんとうちの子供たち、だけじゃない。これから、「群れ」はもっともっと増える。雲雀さんは別に何も言わないけど、朝からオレにべったりくっついているのは、群れにイラついて暴れないように、我慢するためだと思う。みんなの前でおんぶおばけをくっつけているのは恥ずかしいし、動きにくいけど、離れて、と言ったら雲雀さんはきっと帰ってしまう。それは嫌だ。でも、せっかくのクリスマスに、獄寺くんがずっとかっかしてるのも嫌だ。
「あ、あのね、獄寺くんが来たら、頼もうと思ってたことがあるんだけど。……獄寺くんにしか、頼めなくて。」
 こんな言い方はちょっと照れる。そっと言うと、獄寺くんがぱっとオレの方へ向き直った。耳元で雲雀さんが小さく笑う……もう、雲雀さんのためってわけじゃ、ないんだから!
「はいっ、何ですかっ!十代目の頼みとあらば、この不肖獄寺、何だって!」
 言ってる内容はともかく、やっぱり獄寺くんも笑っててくれた方がいい。
「獄寺くんは、クリスマスに歌う歌って、きっと詳しいよね?」
「いえそんな、詳しいというほどじゃありませんがっ」
 いや、どう考えても確実にオレよりは詳しい。
「ランボたちにね、「もみの木」を教えたら、歌って母さん達に褒められたもんだから、もっと歌いたいって言うんだ。けど、オレ、あんまり知らなくて。それに、歌うならイタリア語のほうがいいかなって」
 イーピンには悪いけど、でも日本語だってイタリア語だって、どっちみちイーピンには外国語だ。
「今日ね、最後にみんなの前で歌うように、1曲か2曲でいいから、何か教えてやってもらえないかな?簡単なのでいいんだ。それに、今から準備するのに、子供らがうろちょろしてるとなかなか進まないから、獄寺くんが見ててくれたら、すごくありがたいんだけど、」
「わっかりました!まかせといてください」
 獄寺くんはどんと胸を叩いてくれる。ランボとけんかするかもしれないけど、雲雀さんを威嚇してるよりは、楽しいんじゃないかと思う。
「ありがとう!今、みんな庭のクリスマスツリーに電飾とか、つけてるから」
「あ、行く前に、ヒバリの野郎、引っぺがしましょうか?」
 丸く収まりそうでほっとしてたら、そんなことを言い出して、雲雀さんの腕が強くなった。ただ大丈夫だよ、いいんだよって言って納得してくれるだろうか。獄寺くんと雲雀さんの直接対決になると、まずい。
「ひ、雲雀さんは、いいんだ、このままで。えーと、その、」
 何かいい言い訳は、
「雲雀さんは、あー、あ、甘えんぼだから!」
 ……何言っちゃってんのオレ。
「……………………、」
「……………………。」
 獄寺くんと雲雀さんと、二人分の沈黙が痛い。こめかみを冷や汗が、つうっと流れ落ちる。ど、どうしよう。
「……ヒバリ、甘えんぼ、なのか?」
 それ本人に確認しちゃう!?
「……うん、そう。」
 雲雀さんも認めちゃうんですか!
「確かに十代目は男でも甘えたくなる、器のでかい素晴らしい方でいらっしゃるが、あんまり迷惑かけてんじゃねーぞ」
「君に言われたくない、」
 チッ、と舌打ちして、獄寺くんはつっかけをひっかけると、庭に出て行った。これって、丸く収まったの?爆笑する山本の横で、オレは呆然としてしまった。




2010年3月18日