拍手のお礼文、破鍋に綴蓋、成らぬ堪忍するが堪忍、因果の小車、の三つのお話に、たくさんのメッセージ頂きました。本当にありがとうございます。
 そのなかで、「この雲雀いじめたい」「沢田さんは雲雀さんにオナニーを見せるべき」という旨のご意見を頂きまして、全くその通りだ!と大変感銘を受けましたので、その二つを合わせてみました。
 全てが解決した後の10年後ひばつな、という設定ですので、まだ原作には出てきていない部分です。当然いろいろ捏造です。あと、前後編でちょっと長いですが、半分はオナニーです。さらに、雲雀さんは可愛い通り越してへたれです。書いてるうちに麻痺してきて、どの辺からがキャラ崩壊なのかわからなくなりました。あ、でも、ひばつなです。雲雀さんはつっこむ方です。そんな話です。

 以上、ご留意の上で、ばっちこい、という方に読んでいただければ幸いです。





『 10年後のオレへ。

  なんとかおわったよ!!
  これから もうこういうことはやめてくれよ
  自分でやれ!

  ヒバリさんがダメなおとなみたいなのは
  オレのせいもたぶんあるから それはごめん
  これからはがんばってきびしくしてみるけど
  あんたも オレなんだったら
  それがオレにはむずかしいってわかるよね

              沢田つな吉

  ついしん
   きず薬かりた!よくきいて助かった
   けど、もっとしんちょうにいれろって
   ヒバリさんに言ったほうがいいと思う     』




 綱吉と雲雀と、他の、10年前と入れ替わっていた面々が、正一の手によって分子から再び人の姿を取り戻した時、当然のことながら全ては終わっていた。
 三人で事情を説明はしたが、作戦を秘密にしていたこと、敵対ファミリーの幹部であったはずの正一がスパイであったこと、不信とわだかまりはどうしても全員の心に残った。けれど、この世界が存在していて、皆、生きているのなら、いつか、わかりあえる日が来る、と思う。生きているから、わかってもらえるまで、努力することも出来るのだ。

 とはいえ、綱吉の言葉ならば黒いものも白く見える獄寺はともかく、山本やハルに問い質されるのは辛い。すぐにトンファーを持ち出す雲雀と一触即発のところを、見かねたクロームが割って入って、とりあえず今日は解散となった。ため息をつきつつ綱吉が自室、とりあえず執務室へ戻ると、当然のように雲雀もついてきた。扉を閉めた途端、後ろから抱き着いてきて、鼻の頭をうなじにこすり付けるようにしてすり寄ってくる。
「恭弥、お疲れさま。……本当に、ありがとう」
 首を絞めるような勢いでしがみついている腕にそっと触れて、首をめぐらすと、食い荒らすように口づけられて、綱吉は目を閉じてそれにこたえた。明かりもつけない部屋に、かすかな水音が響いて、鼻から抜ける、甘えたような声が時折混じる。一度唇が離れたが、ぐるりと綱吉の身体が反転し、正面から再び貪りあう。長い時間があって、やっと二人が離れた時、綱吉が握りこんでいた雲雀のジャケットの襟はくしゃくしゃだったし、雲雀が指を差し込んで、頭皮を撫でながらかき回していた綱吉の髪はぼさぼさだった。お互い、それには構わず、はあ、と切なげに濡れたため息が落ちた。綱吉は立っていられずに、よろよろと後ろにあった執務机にもたれた。雲雀が脇の下に手を入れて、気軽にひょいと綱吉を持ち上げ、机に座らせる。そのまま、綱吉の身体を挟むように机の両脇に手をついて、額を合わせて覗き込んでくる。ふふ、と微笑みあって、雲雀の頬を、綱吉はおもむろにぴたぴたと叩いた……刃渡り15pのおおきな事務用ハサミで。

「じゃ、言い訳があるなら、ちょん切る前に聞こうか。」

 にこにこと微笑む綱吉の手には、白銀に輝く刃。ハサミと侮るなかれ、これは、仕事のために経済新聞をスクラップする綱吉のカッター捌きがあまりにもおぼつかないため、震え上がった獄寺がプレゼントしたドイツ製、鋭角の刃先は美しく、切れ味は折り紙つきである。
「……つな、よし、」
 たらりと、冷や汗一筋。沢田綱吉欠乏症を一刻も早く治療するため、今にも不埒な動きを始めようとしていた両手をそろそろとあげて、ゆっくりと後ろへ下がった雲雀の、あごの先をかすめて、しゃきん!と血に飢えたハサミが鳴った。
「オレ、言ったよね。ちょん切るって、」
 にこにこにこ。表情は笑みの形になってはいるが、これが笑っているように見えるのならば、相当おめでたい。
「うっ、浮気、は、してない!……、よ?」
 雲雀は綱吉の迫力に押されているのか、言い切れずに語尾が不安定に揺れる。
「ふぅん、そうなの?」
 首をかしげた綱吉に、蒼白になってこくこくと頷いて見せる。短い黒い髪がぱさぱさと揺れる。それを、さら、と指に掬い上げる。昔から、10年前から、憧れている、綺麗な黒髪。
「……この髪、子供のオレには、不評だったんじゃない?」
 苦笑して言えば、話題が変わったと思ったのか、雲雀は、ほ、と息を吐いた。全く、甘いと言わざるを得ない。
「デコ助って言われた」
 思い出したらしくむっとしている眉間を撫でてやりながらも、ぷ、と笑ってしまう。
「言えばよかったのに、オレのせいだって」
 作戦決行の3ヶ月ほど前だった。トマゾの内藤家といつもの小競り合い(ロンシャンと綱吉のじゃれあいのようなものだ)の最中、世界の存亡ばかり気にかかっていた綱吉は、落ちていた古新聞に足を取られてすっ転び、たまたま綱吉に背を向けて立っていた雲雀を巻き添えにした。そこをパンテーラに狙われ、それはちゃんと転がって避けたのだったが、転がった先に割れたガラス瓶が落ちていたのだった。雲雀は、腐っても雲雀なので、本当に危険な時にはこういうミスはしない。相手がロンシャンだったからこそ起きた事故だと言えた。まあそれはともかく、結構深く切っていて、雲雀は、治療のために丸坊主にされてしまったのだった。これでもまだ伸びてきた方なのである。
「別に、『君』が知っていれば、『10年前の沢田綱吉』に何と思われようが、僕には関係ない。」
 ぷい、と頬を膨らませてそっぽを向く。その横顔にやれやれと肩をすくめる。
「……で、何と思われようが関係なくて、何したの?」
 さくり、と綱吉があっさり核心へ切り込むと、雲雀はぎくりとして固まった。何か後ろめたいことをしたのだと言っているようなものである。ただ、雲雀がこうなってしまうのは、綱吉の前でだけだ。世間では、表情の読めない、真意の見えない、やりにくい相手、で通っている雲雀恭弥である。オレも、この人の考えてることがちっともわからないって、枕を涙で濡らした夜もあったはずなんだけどなぁ、と綱吉は密かに遠い目になる。
「ち、違、だから、浮気、とかじゃなくて、」
 あうあうと口を閉じたり開いたりしている雲雀は、並盛に恐怖政治を布いている支配者とも思えぬヘドモドぶりである。常日頃、プライドが高く、つんとした野良猫のように振舞っている雲雀が、綱吉の前でだけこんな風になってしまうのは、10年前はただ、「雲雀さん可愛い」「雲雀さん萌え」とだけ思っていたが、今では、非常に嗜虐心をそそるのだった。背筋がざわざわとする。デスクに腰掛けたまま、高く脚を組んで、ぺろ、と舌なめずりをした綱吉は、ハサミを手に妖艶な微笑を見せた。
「浮気とかじゃなくて?ほら、恭弥、ちゃんと言い訳してよ」
 完全に、スイッチが入ってしまった。雲雀は縮み上がって、あわあわと弁解した。
「う、浮気じゃなくて、ただ、綱吉に、似てるから、」
 似てるというか、本人だ。ただ、「彼」がこれから10年の時を過ごしても、今ここにいる「綱吉」にはならないだろうが。
「淋しいし、腹が立つし、お互いにおかずにして、一発抜いて、……」
 そこで言葉に詰まって、むにゃむにゃと語尾を濁す雲雀の頬を、また、ハサミでぺちぺちと叩いた。
「一発抜くだけじゃ足りなくって、無理やり突っ込んじゃった、と。」
 後を引き取って、綱吉が続けると、黒い頭が、がくりとうなだれた。
「恭弥、」
 ちょいちょい、と指で呼ぶと、なに?と腰を曲げて覗き込んでくる。その横っ面を、今度はハサミでなく、机の上から脚を上げて、よく磨かれた茶色の革靴で、ぐに、と押し潰した。
「そんなこったろーと思った」
 ハン、と鼻で笑って、半眼の綱吉は薄ら笑いで言い捨てる。もともと、決行前に釘を刺したのは、ここ数年、対綱吉の場合において、幼児化の顕著な雲雀が、綱吉が不在で、しかも再会できるかは不確定の状況で、目の前を、同一人物ではないけれど本人、がうろうろしていて、手を出さずにいられるとは思えなかったからであった。こんな予測ばかり良く当たる。
「14歳のいたいけなオレを切れ痔にして!トラウマになっちゃったらどーしてくれる!!」
 貼り付けた微笑から一転、がうっと叫べば、雲雀も言い返してくる。
「君は10年前からそんなタマじゃなかっただろう!意外と図太くて!」
 しゃ、とドイツ製のハサミが、空気と雲雀の右頬の皮膚を切り裂いて、びいん、と少し離れた床の上に突き立った。
「ごめんね、手がすべっちゃった。……何だって?」
 少し声を低めると、雲雀が意気を取り戻したのは一瞬で、すぐにぶんぶんと首を横に振る。綱吉は居丈高に腕を組んで、自分より目線の高い雲雀を、気分だけは見下ろした。
「『おあずけ』もできない駄犬は、しつけ直さないといけないね?」
 すと、と机から下りると、先ほどハサミが掠めて2pほど切り裂かれた雲雀の頬を、いささか乱暴に親指で拭う。指先ににじんだ赤を、見せ付けるようにねっとりと舌で舐め取った。少ししょっぱい、命の味に目を眇める。おそらく今、綱吉の瞳は薄く光っているだろう。雲雀は、魅入られたようにこちらを見ている。
「上手にできたらご褒美をあげる。できなかったら……、」
 ご褒美、という言葉に、素直に期待した顔を見せて、淡く頬を染めた。まったく、「孤高の浮雲」なんて誰の話だ。
「恭弥、『おすわり』」
 ぴしゃりと言うと、雲雀はしおしおとその場に正座した。しょぼん、としたその肩を見ると、ぞくぞくしてしまって、困る。綱吉もしゃがんで、駄犬の顔を見てやれば、不安と、期待と、焦燥とで、揺れていた。可愛くて仕方ない。顔を近付けて、血のにじむ頬を舐める。思わずと言った風に手を伸ばして、綱吉の背に触れてくるのを、ひと睨みで止める。
「『まて』!良い子の手はお膝だよ」
 素直に手が下ろされ、膝の上にそろえて拳が握られたのに満足する。うん、と頷いて、また傷を舐めた。傷口を押し広げるように舌を当てると、止まりかけた血が再びにじんで、鉄の味が強くなる。いたいよ、と小さな声で言うのに、いたくしてるんだよ、と軽く笑って答える。鼻の頭を合わせると、擦り付けようとして、さっきの『まて』を思い出したのか、口をへの字にして雲雀の動きはぴたりと止まった。
「そう、良く出来ました」
 くっくっと笑いながら、一瞬だけ鼻先に口付けて、今度はきっちり上まで上げられた、黒いネクタイの結び目に指を掛けた。第一ボタンを外して、あらわれた喉仏を緩く咬む。唇だけで食んだり、軽く歯を当てたり、しばらく遊ぶ。
「……恭弥の匂いがする」
 綱吉の唾液で濡れた喉に、はあ、とわざとらしく切なげなため息をこぼして、小さく呟けば、雲雀は両手を膝に置いて正座したまま、もぞ、と身じろいだ。綱吉はそれを見るといったん離れて、ジャケットを脱ぎ捨てると、今度は自分のネクタイに手を掛けた。
「これ以上お行儀の悪いことができないように、繋いじゃおう」
 綱吉は、棺に入れられていた時のままの格好だったので、外出・戦闘用、いわゆる「よそゆき」の、白いスーツを着ていた。光沢のあるピンクベージュのネクタイは、シルクで、肌触りが良い。する、と抜き取ったそれで、膝の上に置かれた雲雀の両手首を拘束する。上質のネクタイが皺になるのも構わず、きゅ、と固く結び目を作る。
「あったかい、」
 そんなものにも綱吉の体温を追う雲雀が愛おしくて、ぐるぐると縛った手を持ち上げると、ちゅっちゅっと音をさせて、両手の甲に唇を落とした。そしてぱっと離せば、重力にしたがって、拘束された両手は、ぱたんと膝の上に落ちる。
「オレが死ぬ日の朝、」
 雲雀の目を見ながら、綱吉は、ぷち、ぷち、と時間をかけて、自分のシャツのボタンを外してゆく。シャツの下はすぐ、素肌だ。
「……見たいって、言ってたよね、」
 舐められて、濡れて光っている雲雀の喉が、ごく、と上下した。濃いグレーの、ストライプのシャツの前が開いて、適度に鍛えられた大人の身体、しかし、無垢な子供のような象牙色の肌が見え隠れする。綱吉自身には、なまっ白くて男らしさのない、コンプレックスの種であるが、雲雀はこれに欲情するのだった。目を閉じて、手を滑り込ませる。綱吉の目蓋の裏の世界では、これは雲雀の手だ。鳩尾の辺りをさらりと撫でて、は、と熱のこもった息を吐いた。シャツをスラックスの中から引っ張り出す。



(後編に続く)