晴れ上がった、練習試合日和である。

 凡退で1回の攻撃が終わり、守備についた山本武は、バックネット裏、そのいちばん後ろの席に、思いもかけない姿を見つけて、目を見開いた。

 雲雀恭弥だ。

 練習とはいえ、対外試合だ。野球部は並盛中の名を高めることができるのか、監視に来たとでも言うのか、まさかそんなわけはあるまい。こんな「群れ」の多いところへ、どういう風の吹き回しなのかと、じっと見つめている山本武の視界の中で、雲雀の斜め前あたりに立って喋っていた、おそらく誰かの母親だろう、女性の二人連れが立ち去った。

 それで、雲雀に連れのいることがわかった。隣どうし、ぴったりくっついて、座っている。

「ツナ……?」

 綱吉が来ていることは、もちろん、知っていた。山本が応援に来て欲しいと頼んだのだ。試合前に、フェンス越し、手を振ってくれたときには、雲雀どころか、沢田家の子供たちも、いつも綱吉から離れない獄寺も、綱吉の周囲には誰も居らず、一人で来るのは珍しい、と思った。嬉しい、とも。

「偶然?一緒に来たのか?まさかな、」

 二人は、屋根もないスタンドに、時折吹く冷たい風からお互いを守るように、身を寄せ合って座り、一枚の膝掛けを半分ずつかけている。

 三年生のピッチャーは、緊張しているのか、ロジンバッグを握ったり手のひらを拭ったり、もたもたして、相手の攻撃はなかなか始まらない。綱吉は、ふと何かに気づいたように、足元に置いたメッセンジャーから水筒を出すと、中身をフタに注いで、雲雀に差し出した。白い湯気が立って、綱吉がほほえむ。

 飲み物を口元へ近づけた雲雀は、しかし、すぐに綱吉につき返した。綱吉は、気を悪くしたそぶりも、怯えることもなく、朗らかに笑う。雲雀が少し、頬を赤くする。その表情、本当に雲雀だろうか。山本は、自分の見ているものが信じられなくて、何度も瞬きした。

 綱吉が、水筒のフタに向かって、唇を尖らせている。湯気が消える。それを数回繰り返して、もう一度雲雀に手渡すと、今度こそ雲雀はそれに口をつけた。

 カン、と澄んだ高い音がして、並中エースピッチャーの初球は山本の頭上を越え、グラウンドのはるか後方へ飛んでゆく。場外ホームラン。

 捕れないとわかりきった球を、それでも追いながら、山本は考えた。

(偶然、待ち合わせ、一緒に来た、本当のところはわからねーけど、つまり、今、オレが見た二人が全部だ。)

 燕は、春が来ても、親指姫とは一緒になれないのだ。






2009年3月24日

雲雀さんにふーふーしてあげるツナを見てショックを受ける山本。ごめん山本。
山本はガチだと思っています。あとフゥ太も。(2009年7月5日)