沢田綱吉と雲雀恭弥は、紆余曲折の末にめでたく、おつきあい、なるものを始めた。
一緒に登校。手を繋いで下校。二人きりでお弁当を食べ、あーんでおかずを交換する。ジャージを忘れた綱吉が“雲雀”の縫い取りもまぶしい体操着で体育に出席し体育教師の度肝を抜けば、怪我をした雲雀が2-Aに現れ綱吉に叱られながら絆創膏を貼られて微笑みクラスメイトを脳貧血にする。最初のデートはゲーセン。二度目のデートは図書館でお勉強。三度目が映画、暗闇で初めてのキス。四度目は夢と魔法とネズミにあふれた遊園地。幽霊の棲む館で舌も入れた。そこから次は、行きつ来たりつまったりとおうちデート。綱吉の部屋でどきどきしながらさわりっこも済ませ、まったくもって順風満帆である。
さて、放課後、並中の応接室、さらに言うならその黒いソファの上で、通算三回目の「さわりっこ」が、ひと段落着いたところである。二人とも、頬を上気させ、まだ夏には遠いと言うのに額にうっすらと汗を浮かべて、雲雀の黒いつややかな髪はくしゃくしゃの蔓草模様を描いて顔に張り付いていたし、綱吉のふかふかつんつんの茶色がかった髪はいまはしんなりと垂れ下がっていた。全裸にこそなっていないが、着衣は乱れに乱れ、もはや着ているとはとてもいえない様子で、もそもそと腰や脇の辺りにわだかまって、その中で、お互いにお互いの性器を手におさめたまま、はぁはぁと荒い息をついていた。雲雀が手を動かせば、吐き出して固さを失ったものがにゅるにゅると掌をすべる。「あ、やめて、やめて、」女の子のような声を出して腿を震わせた綱吉も、負けじと指を動かす。ならばもう、再び火がつくのは止めようもない。
両手はふさがっている。雲雀は、うつむいた綱吉の額に額をあわせ、上を向かせると、綱吉の唇ごと食べてしまうようなキスをした。息は上がっている。それなのに必死で舌を絡めるから、苦しくて仕方ない。でも身体がしびれるほど気持ちいい。片手を離して、綱吉の肩を掴むと、そのまま体重をかけて後ろへ押し倒した。苦しさから開放されたはずの口が紡ぐのは互いの名前ばかり。欲望の命じるまま、雲雀が綱吉のズボンと下着をまとめて引き降ろす。膝裏から手を入れて、すべすべした内腿をねっとり撫で回しながら上へ上へと進んでゆく、と、
「え?」
とろん、ととろけていた綱吉の目がばちっと見開いた。
「ちょ、ちょっと待って雲雀さん!オレがされるほうなんですか!?」
「……は?」
伏し目がちだった雲雀の目蓋もぱかりと開いた。
「何、君、僕にするつもりだったの?」
綱吉はべたべたの手で雲雀の胸板を押し返した。
「だ、だって、どう考えても雲雀さんがされるほうでしょ!」
雲雀も綱吉の膝頭をつかんでぐっと押し開いた。
「何をどう考えたらそういうことになるのさ!」
あとはもう、色気も何もない押し合いである。
雲雀さんのほうが美人、沢田のほうが可愛い、僕の方が年上だ、オレはボスですよ一応、オレ、童貞は雲雀さんに捧げたいんです、僕だって、まったくばかばかしい言い争いだが、当事者は真剣そのものだ。ぐぎぎ、と力による押し合いは五分、綱吉が、もう、死ぬ気丸飲んで襲い掛かっちゃおうかな、と最終手段を考え始めたとき、突然雲雀が、あ!と高い声を上げた。
「交代でしたらいいんだ。」
「………………それもそうですね!」
ぱぁぁぁ、と光り輝くような笑顔になった綱吉を見て、かわいい、と呟くと、雲雀はさっそく「じゃ、僕から」とのしかかった。後のことを言うのは、野暮というものである。
結局、若葉マーク二人が攻守交替をして一回ずつ、というのは無謀極まりない試みだったようで、記念すべき初Hの後、ぼろぼろになってソファに沈んだ綱吉と雲雀は、そのままお泊りとなった。翌日も授業に出るのはおっくうで、鍵をかけた応接室でそのまま昼過ぎまでごろごろして過ごした。そうして、
「せーのっ」
「じゃんけんぽん!」
「あいこでしょっ!」
するのか、されるのか、希望が被ったときは、じゃんけんで決める、というルールが取り決められた。
「ぃやったぁぁーぁあ!今日はオレがします!!」
「…………チッ」
「舌打ちしないでください!」
……沢田綱吉と雲雀恭弥は、紆余曲折の末にめでたく、おつきあい、なるものを始めた。
「嘘だよ。君となら、ほんとはどっちだっていい」
「オレもです、雲雀さん。大好きです。」
「じゃあ代わって」
「それとこれとは別です」
二人の仲は、まったくもって順風満帆である。
2008年5月12日
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