はじめてひばつなの夢を見ました。
というか、こんなような内容の同人誌を読んでいる夢でした。
夢なので、あんまりにも前後関係のおかしい部分や、思い出せないところもあって、そこは創作しましたが、大筋はこんな話です。
起きたときものすごく脱力しました……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
夜十時過ぎ、ベッドに寝転がって漫画を読んでいると、窓がコツコツと鳴った。
「つなよし、開けて」
雲雀さんの声だ。雲雀さんが夜にやってきて、一緒に眠るのはよくあることなので、オレはいつものように何の気なしに窓を開けた。そしてたいそう驚いた。そこにいたのは
「クサガメ!」
になってしまった雲雀さんだった。
「ひばりさん、亀になっちゃったんですか」
「そのようだね」
オレは亀が肩をすくめるところを初めて見た。
「こんなところで立ち話もなんですから、とりあえず、あがってください」
亀の手足で窓枠を越えるのは大変そうだったので、オレは雲雀さんを抱き上げた。急に持ち上げられて驚いたらしい雲雀さんは、ぎゅっとオレにしがみついたので、パジャマごしに爪がささってちくちくした。
明るい蛍光灯の下でも、やっぱりどこからどう見ても、雲雀さんはクサガメだった。
「エンツィオ(平常時)より大きいですね」
オレがそう言うと、威張ったように首をにゅーっと伸ばして、
「僕があんな金髪男に負けると思うの」
と言った。クサガメになった雲雀さんが、エンツィオより大きかったところで、ディーノさんに勝ったことにはならないんじゃないだろうか、と思ったけれど、にゅーっと伸びた首の迫力に負けて、黙っていた。それにしても、亀って鳴いただろうか。声帯もないのに、雲雀さんはどうやって喋っているのか、不思議だ。
「テレパシー?」
首をかしげて考えていると、雲雀さんは右前脚でてしてしとオレの膝を叩いた。
「寒いんだけど。布団に入れてくれない?」
変温動物になるってどんな感じなんだろう。また雲雀さんを抱き上げて、掛け布団を洞窟のように盛り上げた中にそっとおろすと、布団の陰からにゅーっと首が伸びた。今度はなんだか不満そうだ。
「……君は眠らないの」
雲雀さんは亀になっても、いばりんぼで、わがままで、あまえんぼだ。
「寝ますよ。すみません、もうちょっと寄ってください。」
オレは明かりを消すと、雲雀さんをつぶさないようにベッドにもぐりこんだ。雲雀さんは、オレの左脇あたりでじっとしていたけれど、しばらくするともぞもぞと這い出てきた。
「暗い。布団が重い。息苦しい。」
「…………。」
結局、仰向けに寝たオレの胸の上に落ち着いた。雲雀さんがガラパゴスリクガメやアオウミガメでなくてよかった。もしそうだったら圧死してしまう。少し重くて、冷たかったけれど、人間の時もオレの上に乗っかって眠って、しかも頭を洗って乾かさないまま来ることがあったので、そのことを思ったら、まったく問題なかった。
「それにしても、なんで亀になっちゃったんですかね」
ゆっくりと甲羅を撫でた。雲雀さんは気持ちよさそうに目を閉じている(多分)。
「案外、キスとかしたら人間に戻ったりして」
そう言うと、ぱちっと目蓋が開いて、爬虫類の真っ黒な目がまっすぐにこっちを見た。
「君が王子様と言うわけ?」
オレは真っ赤になった。何言っちゃってるんだか、恥ずかしい。
「すみません、ずうずうしくて、」
「すればいいじゃない」
「え?」
思わず少し身体を浮かせたら、傾いた雲雀さんにまた爪を立てられた。
「してよ。キス。」
少し引きかけていた頬の赤みが、倍返しで戻ってきた。
「じゃ、じゃあ、します。」
もう両手の指では足りないくらいの回数はしているはずなのに、毎回毎回律儀に照れて緊張しているオレはかなり情けない。雲雀さんが鎖骨のあたりまで歩いてきてくれたので、オレは首を少し起こして、人間の雲雀さんにするよりももっと、唇を尖らせた。亀の頭は小さいし、そこについている口はもっと小さい。
「……なんか、卑猥ですね」
にゅっと伸びた亀の頭に唇をつける寸前、思わずオレがそう言ってしまうと、雲雀さんは無言でオレの鼻を咬んだ。ちょっと血が出て、ものすごく痛かった。
キスをしても、雲雀さんはクサガメのままだった。オレは、明日の朝ごはんは何を用意したらいいんだろうか、と思いながら眠った。
夜更け、やけに寝苦しくて目が覚めた。暑い、重い、苦しい。この感触は、あれだ。
「ひばりさん、もうちょっとよけて…………って、雲雀さん!?」
驚いて思わず跳ね起きると、オレの上にのしかかるように眠っていた雲雀さんは、どたんとベッドから落ちた。
「なんなの……」
がりがりと頭をかいて、あくびしながら起き上がって、床の上であぐらをかいている雲雀さんは、普通の雲雀さんだ。全裸だけど。
「人間に戻ってます!」
さすがにその言葉で目が覚めたらしく、自分の手のひらを見ながら、ほんとだ、とかなんとか呟いている。オレはベッドから降りると、ぺたぺたと雲雀さんの身体を触ってみた。やわらかくて、あったかい、人間の肌だ。恒温動物だ。首もにゅーっと伸びたりしない。へそがある。哺乳類だ。そしてオレは目をそらした。
「ところで、すっぱだかであぐらはやめてください。」
「うん。寒いんだけど、布団に入れてくれない?」
今度は雲雀さんはオレの返事を待たずに、オレを抱えるとベッドに戻った。雲雀さんにこんなふうに抱えられるなんて初めてだ。もしかして、さっきオレが何回か雲雀さんを持ち上げたのを気にしているんだろうか。亀だったから仕方ないのに。
「よくわからないけど、戻ってよかったですね」
「キスが効いたんじゃないの」
オレに覆いかぶさった雲雀さんは、顔中に唇を降らせてくる。やわらかくて、薄くて、少し乾いた感触がくすぐったい。ひんやりして、とがっていた、亀の口先の感触とは全然違う。あれはあれで可愛かったけど。
「どんな姿でも雲雀さんが好きですけど、やっぱり人間が一番いい」
黒い髪に指を差し入れながらオレが言うと、鎖骨のくぼみを舐めていた雲雀さんは顔を上げた。
「セックスできるしね。」
「それもあります。」
頷いたら、雲雀さんはもともと切れ長の目をきゅうっと細めて、くくっと笑った。
「けものならともかく、亀じゃあね」
「ともかくってなんですか!」
オレは雲雀さんが、ライオンとかオオカミとか、そういうものになりませんように、と願った。
一番絶望すべきなのは「卑猥ですね」が加筆ではなく夢のままだということ
2008年4月23日
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