(中学生)




 吹き抜ける風が梢を揺らして、ざわざわと山を震わせる。じゃっじゃっという賑やかなカケスの声をBGMにして、綱吉は拳を握ってきりっと断言した。

「まず、地上に小屋を作ります。」
「小屋、」
「……残念ながら、オレは小屋を建てたことがありません。」
「僕もだ。」

 まあ、ふつう、いまどきの男子中学生で、小屋を建てたことのある者はあまり居ない。

「いきなり木の上に秘密基地を作るのは、ハードルが高すぎます。練習してからの方がいいです。」
「……………………、」

 空をふさぐ木々のうち、一本が倒れ、ぽっかりと陽だまりになった林の中、倒木に腰掛けてツリーハウス建設(の前段階)計画を聞いていた雲雀が黙ってしまったので、生意気だったかな、と綱吉は不安になった。

「いやあの別に、雲雀さんがこうしたいってやり方があれば、是非それで、」
「……沢田が、筋道の立ったまっとうな手順を、自力で思いついてる、」

 ぽつりと呟いた顔は呆然としている。

「雲雀さんてナチュラルに失礼ですよね知ってたけど!」

 綱吉はよよよ、と泣き崩れた。背負ったリュックサックの中の釘とかなづちが、背に重くのしかかった。


「地上に小屋を建てるのは、いい方法だと思うよ」

 膝を抱えて地面にのの字を書いている綱吉に、雲雀が後ろから声をかける。綱吉は振り向かない。

「作業中に休憩できるし、道具も置いておけるしね」

 横からのぞき込むと、ぷくー、と膨れたほっぺたがそっぽを向く。

「急に雨が降るかもしれないし」

 ぷにぷに、と人差し指でほっぺをつっつくと、嫌そうに振り払った。

「ちょっと、いつまで拗ねてんの!?」
「にぎゃっ」

 雲雀も気の長い方ではない。掴みかかって、堆積した古い落ち葉の上にばふんと押し倒す。木々の切れ目から差し込む光の中にちらちらと埃が舞って、菌類の匂いがする。膨らんだ左右のほっぺたに手をやって、犬にやるように両手でぐしゃぐしゃに揉んでやると、綱吉はつぶれた猫みたいな声で悲鳴を上げた。驚いたカケスがよたよたと飛び去っていく。




2010年3月17日