それはそんなに昔のことではありません。
並盛という村に、沢田綱吉という少年と、沢田奈々という母親が二人、二人きりでは広すぎる家に住んでいました。父親はいないわけではなかったのですが、綱吉少年がまだちっちゃなちっちゃな頃に数回姿を見せたきりで、母親の奈々は(なぜか嬉しそうに)「あの人は星になったのよ〜」と言うので、綱吉少年は父親が死んだものと思って暮らしていました。
綱吉少年は、たいそう不器用で要領も悪く、青空学級で教えてもらう読み書きそろばんもあまり覚えられませんし、近所の子供たちとかけっこをしてもいつも最後で、おうちのことを手伝ってもお皿を割ったり牛乳をこぼしたりしていましたが、奈々お母さんのおおらかな愛とおいしいごはんで、それなりに健やかに、とても優しい子に成長しました。
ある日のことです。
「ツナ、はやくご飯食べなさい!今日は勉強する日でしょ!」
「はぁーい……」
いつも通りちょっと遅くに起きてきた綱吉は、奈々お母さんのおいしいごはんをもきゅもきゅと詰め込んでいました。今日は青空学級の日です。また街から来た先生に当てられて答えられなかったら笑われるのかな、いじめっ子にぶたれるのかな、そう思うと気が重くて、もともと細い食がますます進みません。
出された朝食をなんとか口の中へ押し込んで、くたくたのかばんを持って、はあ、とため息一つ。
「行ってきまーす……」
いかにも気が進まない様子で扉を開けた綱吉の前に、ツルハシを担いだ無精ひげの男が立っていました。
「今帰ったぞ!わが子よ、わが妻よ!!」
「うざい!!」
綱吉は光の速さで扉を閉めましたが、奈々お母さんがそんな綱吉を突き飛ばして再び扉を開けました。
「あなた、お帰りなさい……!!」
ここから先はお見せできません。
「ツナが出迎えてくれるなんて、感激だなぁ」
扉の前に立っていたのは沢田家光、死んだものと思っていた綱吉のお父さんでした。お父さんと言うよりは親父でした。
「出迎えてないし!」
綱吉の必死のツッコミも聞いてはいません。
「今日はな、ツナが第一王位継承者になったから、迎えに来たんだ。父さんと一緒に王宮へ行こう!」
「……………………はー!?」
私に会いに来てくれたんじゃないの?妬けちゃうわ!、拗ねるなよ奈々、俺はいつだっておまえが世界で一番だぜ、と万年新婚夫婦は、混乱の極致にいる綱吉はほったらかしでいちゃついています。
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