その日、目覚めると、雲雀は一人だった。食事の支度に時間がかかるようで、綱吉はいつも雲雀よりも早く起きていたが、普段ならまだ少しシーツに残るぬくもりは消えていて、随分と前に抜け出したことを示していた。掛け布団を押しのけて、ベッドから降りる。足元には、雲雀用のもこもこのスリッパが、きちんと揃えて用意されていて、その脇には愛用のはんてんも掛けてあった。
「……沢田?」
呼びかけなくてもわかっていたが、一応、声を出して確認した。部屋の中には、人の気配がなかった。昨夜は早出するなどと、言っていなかったように思うが。不審に思って脚を引きずりながらひょこひょこと廊下を進むと、無人のリビングはエアコンで暖められていた。
「朝ごはん、」
ラップを掛けたおにぎりの皿と、少し焦げただし巻卵の皿、それに味噌汁椀とインスタントの味噌汁、電気ポットがガラステーブルに並べてある。置手紙もあって、手に取った。よほど慌てていたのか、普段からあまり綺麗とはいえない字がさらに乱れて、漢字もほとんどない。いくつの子が書いたのだか、と思うような文面だった。
ひばりさん、おはようございます
きゅうにしごとができて、早くでることになりました
おみそしるインスタントでごめんなさい
台所からおわんはこんでくるのはあぶないと思って
しょっきは帰ったらあらうから、そのままにしてください
「味噌汁に謝る時間があるなら、「急な仕事」が何なのか、書いておきなよね」
呟いても返る声はもちろんなく、普段は気にしたこともない、エアコンの稼動音と掛け時計の秒針が、やけに大きく響いた。綱吉を早朝に呼び出した「仕事」とは、何となく、パスタソースの方ではない気がした。
(「光」より)
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