真夜中に電話が鳴った。
今週も無事に終わった金曜の夜、明日の朝を気にしなくて良い夜更かしとゲーム。それでもそろそろ眠ろうかと、歯を磨きに1階へと降りてきた綱吉は、無遠慮に静けさをかき乱す物体に驚いて、できるだけ足音を立てないように階段を駆け下りると、あわててとりあげた。とってしまってから、こんな時間の電話なんて、心当たりもない、ろくなものではないだろうから、とらなければよかったと思ったが、ランボなどが目を覚ましてぐずってもたまらないので、やっぱりとってよかった、変な電話だったらすぐ切っちゃおう、と思った。
「……もしもし?」
低めた声は、自然ととがめるような口調になる。遠いのか、何なのか、電話のむこうの声はよく聞こえない。
「もしもし?」
もう一度、心持ち声を強めて、もう切っちゃおうか、そう思って、少し受話器から耳を離したところで、微かな息遣いが確かに聞こえて、コードレスの子機を取り落としそうなほど、どきりとした。嫌な予感がして、どんどんと胸が鳴った。変態のいたずら電話だ、と思ったからではない。むしろその方がいい、と考えた。
「あっ、ひっ、もしかして、ひばりさん!?どっ、どうしたんで……雲雀さん!」
急に声が近くなった、気がした。はっ、はっ、という荒い息の合間にかすかに、さわだ、とゆっくり呼ばれたのが、確かに聞こえた。その途端、激しくむせる声と、がたん、と何かが倒れるような音がして、心臓は痛いし、握り締めた電話は壊れそうにみしみしときしんで、綱吉こそ脳貧血で倒れそうになったが、しっかりしろ、おちつけ、と言い聞かせて、何とか立っていた。そして、何を尋ねるべきか、と2秒考えた後、できるだけ穏やかな声を出そうと努力して、訊いた。
「雲雀さん、雲雀さんですよね?どうしたんですか?どこにいるんですか?」
それでも、ずいぶん切羽詰った声になった。おちつけ、おちつけ、と呪文のように心の中で唱えながら、心臓の音があまりにうるさくて、聞き漏らさないように、痛いほど耳に受話器を押し当て、永遠とも思える3秒を待つと、ようやく声らしい声が聞こえてきた。
「こんな、じかんに、ごめん……」
そんなことはどうでもいいんです!とわめきたいのをぐっとこらえると、くぅっと喉が鳴った。
「ひば……」
「ごめん、たすけて」
ぐらりと、足もとが揺れた。
(「友達でいいから」より)
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