本日最後の授業は、理科の実験なので、教室を移動しなければならない。いつもの如く、山本、獄寺の二人と、校舎二階の廊下を歩く綱吉は、開け放たれた窓から、暗く垂れ込めた、黒に近い灰色の雲が覆う空を見上げた。
「嵐が来そうだね、獄寺くん。」
指輪のことがあってから、天候と仲間たちの顔を、どうしても結びつけてしまう。登下校が大変で、憂鬱なはずの荒れ模様も、しょうがないなぁ、と苦笑するだけだ。雷にむやみにビクつくことはなくなったし、雨は優しいと感じる。嵐、と言った綱吉の言葉の意味を察して、獄寺がはにかむような顔をした。
「そうっすね。あ、十代目、傘はお持ちですか?」
「うん、置き傘があるよ。最近、雨多いもんね。」
最後の方は山本を見て言った。山本も綱吉を見て笑う。まるで、三人で、秘密の暗号をやりとりしているようで、くすぐったい気持ちがする。
五月もそろそろ終わりだ。もうすぐ梅雨入りで、それが終われば、夏になる。手が届きそうな低い雲。雲は、雲雀だ。そう思うと、じっと見ているのも何だか変な気分である。外は日が落ちたかのように暗く、(ご機嫌ななめ?)そんな想像をした綱吉は、視線を下へ落とした。
(あ、)
すると、どんな偶然か、中庭を横切る黒い人影がある。なびく学ランと、ふわふわと飛んでいる黄色の小鳥。雲ではなく、本物の雲雀恭弥だ。目で追って、首をひねった。
(雲雀さん、具合悪そう)
悪かったのは機嫌ではなく、体調のようだ。二階からで距離はあるけれど、歩き方に、いつものように颯爽とした様子がない。気のせいではないように思う。雲雀が学校を早退するとは思えないから、これからどこか、人のいないところで休むのかもしれない。
(どうしよう、探しに行こうか、)
(「Flavor of Life」より)
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